自分の凹みを認めることで、広がるミライ

こんにちは!エッセンシャル出版社の小林です。

今回は、私が前職で見ていた子どもの話をしたいと思います。

【プロフィール】

大学卒業後、年中~小学校6年生までの子を対象とした塾、花まる学習会に入社。将来メシが食える大人になること、魅力的な人になるということを教育理念の事業で、授業や野外体験の引率などを行う。授業など子どもたちに関わる傍ら、広報部、講演会事業、ブロック責任者などあらゆる業務にも携わる。現在はエッセンシャル出版社で、本づくり、広報など、出版に関わる全てに携わる。

エッセンシャル出版社: https://www.essential-p.com/

私が以前、子どもに授業をしていた時のことです。

毎年4月に、担当教室が変わるのですが、そこに6年生の男の子R君がいました。信頼関係を築くという意味でも、6年生はリミットが1年しかありません。小学校最後の1年(6年生で卒業となる塾)を私が見るからには、早めにその子との信頼関係を築き、学習面や生活面など何かしら伸びる状態にしたいと思っていました。

R君はその中でも、気がかりな子だったのですが、何が気がかりかというと、「4,5月通ったら辞めるかもしれない」という話を聞いていたのです。何かしら伸び悩んでいた状態なのはわかったのですが、そのタイミングでの担当教室の交代だったのです。R君は、授業に来ても下を向いてしまっていたり、受け答えをなかなかしてくれなかったり、たまに授業をさぼることもありました。さらに学力の面でも、まだ2年生の漢字テストが合格していないという状態でした。

私はどうしたものかと考え、とにかく「話そう」と思っていろいろと話しかけるのですが、大人に話しかけられ続けるのが「うざったい」という様子でした。授業中も下を向いて「眠い」というのですが、本当は「何かがわからない」ということなのだと思いました。R君が「ねむい」と下を向くタイミングがいつなのかを見て、もしかしたら「文章が読めないのか?」と想定し、音読のときにはR君は読まないように指導の形を変えることにしました。

ただ、そんな配慮の策では、R君との信頼関係を築けるわけもありません。算数の授業も「先生が声に出して、こういう問題だって」と言うとすらすらと式をつくって答えますが、自分一人では全くやれないのです。ここでポイントなのは6年生としての計算能力、式の理解能力は長けているということです。(ただ、テストの点数を見る限りは、国語も算数も全くとれていないのです)

私は一つの仮説を立てました。学習の理解力がないのではなく、文字が読めないのではないか?ということです。

そこでR君に漢字テストを皆が受ける期間とは別に、ちょっと受けてみないか?という話をしました。R君の過去のテストの点数は知っていたのですが、答案を見ていなかったので、得意なところ、突破口として何があるのかが掴めていなかったのです。

R君のプライドとしても、他の子が6年生(遅くても5年生)の漢字テストを受けている中、2年生の漢字テストを受けるということは、許さなかったと思います。だから授業後に、R君だけ残ってもらってテストを受けてもらう提案をしました。

嫌がっていましたが、それでも教室に通ってくれている=できるようになりたい!という思いが少しは残っている!と信じ、無理やり受けてもらいました。

当たり前ですが、結局、合格点には至りませんでした。でも、そのテストを見て、気づいたことがあったのです。

「読み」はできるということ。

ただ、書きや音訓、書き順などはボロボロということ。

それに気づいて、聞いてみました。

「Rって、読みはできるんだね。漢字を書くってことが苦手なだけなんじゃないの?」って。

R君は、黙っていました。

「この級、読みは全部できているから、次の級のテストも受けてみない?読みだけでいいから」と言い、次のテスト(3年生)を受けてもらいました。

そしたら、こちらも読みはほとんど満点なのです。

どんどん次のテスト、次のテストとやっていくうちに、4年生の漢字の読みから、少し怪しくなってくることがわかりました。

よく考えてみれば、R君は小説や漫画をよく読む子なのです。文字が読めないわけがありません。私の最初の読みは外れていました。

R君は「文字は読める」。ただし、漢字テストではことごとく悪い点を取ってきたが故に、「漢字はできない」となってしまい、4年生以上の漢字は読みも曖昧なものが増えてしまった。だから6年生の国語の文章や、算数の文章題も言われれば理解はできるけれど、自分で読むのは難しいという状態になっていたのです。

これがわかった時、突破口が見えた気がしました。

R君の読める漢字を増やしていけばいいのです。何としても6年生の漢字は全部読める(音訓、熟語も含めて)という状態にしてあげれば、算数の問題だってできるようになるし、国語の問題も読めるから答えられるというところまではなるはずです。勉強面だけでなく、社会に出たときにも、パソコンが発達した現代であれば漢字を正しく書くのが難しくても、「読める」というだけで、生きていける可能性が広がるのではないかと思ったのです。

私は、これはR君にとってある種の試練だと思いました。今まで、できない自分を認めずに逃げてきたのです。学校の漢字テストもその他のテストも「悪い点数」というものしか出てこず、自信を失うことだらけだったのですから。それは嫌にもなるでしょう。

でも、人それぞれ得意不得意は違います。漢字の練習なんて、回数には何の意味もなく、自分が覚えられる方法を見つけることこそが重要なのです。「五感を使った方が覚えられるから」ということも言われますが、それだって千差万別なのではないかと思います。五感の何に優位があるかというのだって、人それぞれなのですから。

私はR君に対して、「先生は、Rが漢字ができないわけではないとわかった。算数の文章題も解けないわけではないと思う。国語の文章に対する理解力もあると思う。でも、それを阻んでいるものも予想がついた。なんだと思う?」

R君は黙っていました。

「先生からは、Rは漢字を書くというのが苦手なんじゃないかと思うけどどう?」と聞きました。

本来、子どもに「苦手」という概念を与えてはいけないと言われていたのですが、これはR君が自分自身の特徴として向き合うべき課題だと捉えて、あえて使いました。

R君は黙っていました。

「来週は4年生の漢字テストをやるね。読めるようにしてきてね。読めるようにするためには、多分、Rの場合はこの漢字辞典の例文を2,3回読めばできるようになるんじゃない?」とだけ伝えておきました。

次の週R君は、4年生の漢字も読めるようになっていました。

また聞きました。

「先生は、Rは漢字ができないと思わないけど、どう思う?」

R君は黙っていました。私が何を求めているのかわからなかったというのもあると思います。

これを3回くらい繰り返したとき、やっとR君が言いました。

「僕は、漢字は読めるけど、正しく書けるようにするっていうのは、なかなかできないのかもしれない」と言いました。

私はその言葉を待っていました。自分で自分の「できない」を認めることを。

その後、R君に伝えました。

■人には得意不得意があること、自分が覚えやすい方法、できるようになる方法を見つけることこそが勉強。そのためには、自分の不得意を自分でわかって、その対処方法を探すことの方が重要だと思うこと。

■R君は今まで、学習において自信が持てなかったと思うけど、それはわからない漢字が多くて、読めなかったから。理解力がないわけでもないこと。

■漢字の書きができないとは言え、自分の興味のある電車に関する漢字は書けているし、少しずつ書ける漢字も増えてはいるから、そこは絶対に書けないと思わず、覚えるのが苦手くらいに思って努力は続けること。

■もしかしたら、テストの点数はとれないかもしれないけれど、気にする必要はない。テストで気落ちして勉強をしないのではなく、自分らしく伸びていくことを選んでほしい、と。

R君が劇的にテストの点数がとれるようになったということはありませんでしたが、R君は、自分の勉強方法を探すことに夢中になり、大好きな歴史上の人物や出来事を漢字で書けるようにするために、辞典をもとに毎週テストをするようになりました。

自分の凹みを認めることから始めれば、自分の凹みすらも強味に変えていける。

テストで点数が取れないと当たり前にがっかりしてしまいます。でも、テストは他者が作った、ある一部の能力を図る評価基準です。

これからの時代は、自分の凹凸がわかったら、その凹凸を生かした、自分なりの伸び方を見つけてほしいと思います。

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自分の凹みを認めることから始め、自分の凹みすらも強味に変える、
そんな多様な社会での強い生き方がわかる書籍があるので、ご紹介しておきます。

 

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『オフ・ザ・フィールドの子育て』より抜粋

強いチームというのは、仲間同士がお互いの「らしさ」や、「好き・得意・苦手」を理解しているものです。

早稲田大学のラグビー部に林という選手がいました。林の運動センスは、同じく運動センスのない私もビックリするぐらいのレベルの低さでした。ボールを取ろうとしても落とすし、味方のサポートをしているだけなのに一人で勝手に転んでテレビ画面から消えたりする。まるで漫画みたいな失敗をたくさんする選手でした。

でも、林だけが1年間全試合に出場しました。背番号8は、彼の不動のポジションでした。なぜなら、彼には強烈な武器があったからです。それはタックル。これがすごかった。どんな大きな相手でも、ひるまずに向かっていきます。

でも、その武器を彼が最初から持っていたわけではありません。ほかのことができないから、一切の練習をタックルに注いだ結果、強烈な武器になったのです。

私は林に、冗談ではなく本気で「ボールに触るな」と言いました。最初、林は意味がわからないという顔つきでした。それもそのはず、誰だってラグビーをやっていて楽しいのは、ボールを持って走ることだからです。それなのにボールに触らないでどうやってプレーするんだろう?と不思議がっていたのです。

「ラグビーは15人でやるスポーツだ。林が一人でやっているわけではない。林には林にしかできないことがある。そこを徹底してほしい」と私は言いました。じつのところ、「僕はどんなプレーでもできます」という選手のほうが、使い道を見つけるのに困ることがあります。凸凹は、でこぼこしているからこそ、がっちりと組み合わさることができるのです。

林の弱点は、チームメイトたちもよくわかっていました。だから、林がボールの近くにいてもボールを回しません。ところが、相手のチームはそんな事情を知らないので林をマークする。そうすると、うまい具合にダミーになって、相手のマークを一人つぶすことができる。味方はみんなわかっているから、「あうん」のサインプレーが成り立つ。一方で、林が万が一ボールを持ってしまったら、全員で必死にフォローしようとするのです。

守りに入ったときには、どんな大きな相手が来ても、林は一発のタックルで倒すことができます。100㎏を超える敵のエースがボールを持ったら、普通なら二人がかりでタックルしなければならない。しかし、そこに林がいれば一人で充分です。

そうすると、味方は次の選手へのマークを意識することができます。ここでも暗黙のサインプレーが生まれました。

人は嫌いなことに向き合うとストレスを感じ、嫌いなことを人前でやるときなどは過度のプレッシャーにさらされます。なかには、「イヤなことを克服してこそ成長する」などと言う人ももちろんいますが、そういうタイプの人は、おそらく誰よりも負けず嫌いで、もしかしたら過去に弱点を克服して成長できた経験を持っているのかもしれません。しかし、多くの人にとって、ストレスや無駄なプレッシャーは失敗する確率を上げ、結果的に取り組む意欲を削いで成長を阻む要因になるでしょう。

でも、「嫌いなこと、不得意なことに焦点を当てる」ことで、それが「その人らしさ」につながる可能性もある。林のように。彼は自身の欠点を逆説的に活かしました。

自分の「好き・得意・苦手」を知りましょう。するとその延長線上に、それまで自分には見えていなかった「コンプレックス」があることに気づくかもしれません。

もし、自分の子や職場の部下の行動などに対して、イライラしたりヤキモキしたりすることがあるとしたら、それはあなたが気づいていなかった、あなた自身のコンプレックスの裏返しなのかもしれません。

原因は相手ではなく、自分のほうにあるかもしれない―― そのことに気づけなければ、状況を変えることはきっと難しいでしょう。自分の「好き・得意・苦手」を知ることは、その最初の一歩になると思います。

◆『オフ・ザ・フィールドの子育て』の紹介◆

本書では、「多様性」というキーワードに着目し、それを独自に育んできたラグビーに学ぶことで、子どもたちに多様性を身につけてもらえる、子育てをよりよくできるのではないかと考えました。

教えてくれるのは、「コーチのコーチ」をしてきた“教え方のプロ”である中竹竜二氏。

さらに、花まる学習会を主宰する高濱正伸先生から、著者の考えに対して、「子育て」や「学び」の観点から、適宜コメントを入れていただきました。

また、巻末にはお二人の対談を掲載し、ラグビーに学ぶことの意義についてご紹介しています。

改めて「ワンチーム」という言葉の意味や、ラグビーが大事にしてきた「オフ・ザ・フィールド」という考え方を知ることで、わが子の個性をどのように活かしたらよいかを考えるきっかけとし、わが子が実際に輝ける場所を親子で一緒に見つけてほしいと思います。

“サンドウィッチマン推薦! ”

ラグビーがなかったら、いまの俺たちはいなかったと思う。

「中竹さん、ラグビーから学んだことは、今に活きています! 」

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㈱エッセンシャル出版は、「本質」を共に探求し、共に「創造」していく出版社です。本を真剣につくり続けて20年以上になります。読み捨てられるような本ではなく、なんとなく持ち続けて、何かあった時にふと思い出して、再度、手に取りたくなるような本を作っていきたいと思っています。

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