【リアルビジネスファンタジー】『エッセンシャルマネージャー』VOL.3「カンジー登場」

【リアルビジネスファンタジー】

「エッセンシャルマネージャー〜賢者カンジーに尋ねよ〜」

園田ばく著/大久保寛司監修

経営の本質って、何だろう?いい会社の本質って、何だろう?

これからの未来に悩む企業の経営者が、偶然、出逢った仙人のような賢者「カンジー」に連れられ、訪れた先の「天国に一番 ちかい会社」で驚きの体験をした後、自分のあり方を見つめ直し、企業を立て直していくリアルビジネスファンタジー。

【著者】

園田ばく

作家。「あり方研究室」主席研究員。企業の取締役として、「一般社団法人100年続く美しい会社プロジェクト」理事の顔も持つ。

【監修】

大久保寛司

「人と経営研究所」所長。「あり方研究室」室長。多くの経営者から師と仰がれ、延べ10万人以上の行動を変容させてきた伝説のマスター。著書に「あり方で生きる」など多数。

【実験的コミュニティ小説】

「エッセンシャルマネージャー」は、オンラインコミュニティから生まれる「コミュニティ小説」の実験プロジェクトです。コミュニティ内で生まれるエピソードや対話が、小説内に、オンタイムで組み込まれていきます。

〜どんな展開になっていくのか、まだ誰にもわからない。

それはコミュニティ内の化学反応と、リアルとファンタジーが融合した先に見えてくる。令和の時代の「みんなで作る小説」=「エッセンシャルマネージャー」〜

collaborated with オンラインラボ「あり方研究室」

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これまでの「エッセンシャルマネージャー」はこちらから↓

VOL.3「カンジー登場」

画像2

「ところで。あなた。なんとお呼びすればいいのでしょうか、ええと」

「近藤です」

「あ。近藤さん。初対面で不躾で申し訳ないですね。わたしは、いまはいろんなところに呼ばれて自由に暮らしていますが。孫たちにはかん爺と呼ばれています」

「カンジー?」

一瞬、マハトマ・ガンジーと聞き間違えたかと思ったが。流石にどうみても日本人にしか見えない。ただ、一度も出会ったこともないガンジーは、なんとなくこの人のような感じなのかもしれないと、何故だか考えていた。

「はい。カンジーでもかん爺でも、なんでも構いません。そう呼ぶ人もいますからね。近藤さんが呼びやすい呼び方で大丈夫です」

孫たちという言葉で、「かん爺」なのだと気がついた。さすがに、わたしがかん爺と呼ぶのは、はばかられるので、カンジーとしておこう。変な名前だが、どうせ何度も会うことはないだろう。こういう輩とは話を合わしておくのが鉄則だ。

「はい。カンジーさんですね、はじめまして近藤です」

「ところで近藤さん。唐突ですが、おつかいをする社長さんのことが好きですか?」

「はあ?!」

社長がよく使う言い方が、わたしにも移ってしまったのか。前の座席の人に聞こえるくらいの大きな声でわたしは聞き返した。前の座席の人が振り返ることはなかったのは幸いだった。

「す、すいません。大きな声を出してしまいました。なんとおっしゃいましたか?社長のことが好きかどうかですか?」

「はい。そうです。近藤さんは、社長さんのことが好きですか?」

長年人事をやっているので、わたしから質問をすることは多い。そしてあらゆる質問に意図があることもわかっている。しかし、見ず知らずの相手に、「勤めている会社の社長が好きかどうか?」という質問の意図はあるのか?

しばらく黙っていたからか、わたしが思考を巡らす時に眉間に小さくシワがよるのを見てとったのか、カンジーがこう続けた。

「いやいや、深い意味はありませんよ。ただ、近藤さんは、社長さんが好きで「おつかい」をしているのか、気になっただけですから」

まるで、こちらが意図を図りかねていることを見透かしたかのような、タイミングであった。自然と心拍数が上がっているのが、自分でもわかった。わたしはなにかの面接を受けている?

(なんなんだ、これは?)

頭の中に、最近いつも流れてくる自問自答の言葉が浮かんだ。

「すいません。もちろん尊敬はしています。一人で数百人規模の会社を築きあげて、さらに拡大戦略を計っている社長ですから」

答えてみて、自分が好きか嫌いかの答えを巧妙に避けているのはわかった。立ち上げから青島と一緒に会社を大きくしてきた自負もある。好きかどうか、考えたことがないといえば嘘になる。

しかし、即答で好きだと答えるには、いろんなことがありすぎた。ありすぎたのだ。

カンジーは、にこやかな笑顔をまったく変えずにこう続けた。

「そうですか。尊敬していらっしゃるのですね。それは、よかったですね」

恥ずかしさで、心拍数がさらにあがった。なにも特別なことを言われたわけではない。会話的には成り立っている。わたしが、答えた内容をただカンジーが繰り返しただけだ。

なのに、なぜか胸がズキンと痛んだ。

カンジーは、それ以上なにも聞かなかった。ただ、ニコニコとわたしを見ていた。

対照的に、わたしはいまにも泣きだしそうな不機嫌な顔をしていたに違いない。

答えられないもどかしさ。いつからこんな風になってしまったのだろうという感慨。

(あなたは社長さんのことが好きですか?)

このシンプルな言葉が、これからわたしを苦しめることになることを、わたしはこの時、予感していたのかもしれない。

わたしが口をキツく結んでいると、カンジーは

「いや、失礼しました。なにも知りませんのに、不躾にもほどがありますね」

そういうと、話しかけた時とまったく同じ様子でわたしを見た。

それから会話は一切していない。

気がつくと、カンジーは隣にいなかった。どこの駅で降りたのだろうか。

立ち上がりの際に、(では、また)と言われたような気もするが記憶があいまいだ。

胸がチクリと痛い

明日の集合場所に近いホテルには、早めに到着する予定を事前に組んでいたので、東京を出るまではチェックインをしたら、繁華街にでも飲みに出かけようかとも思っていた。

しかし、今はそんな気分ではない。

駅に着き、わたしは予約していたグッドデイズというビジネスホテルにチェックインすると、モヤモヤした気持ち切り替えるように、すぐにシャワーを浴び、下着姿でベッドに腰掛けた。そして何を見るともなくボンヤリと窓から夕闇の空を見ていた。

なんだか一日でどっと疲れた。

わたしはTシャツに私服のパンツに履き替え、近くのコンビニでツマミと缶ビールとチューハイを1本ずつ買って来て軽い夕食にすることにした。ホテルの部屋で、ビニールパックに味気なく入った胡椒の味ばかりする牛タンを口に運び、冷えたチューハイを一気に飲み干す。

明日は早いのだ。今回の見学を企画してくれている共同組合の方が、朝一で駅に迎えに来てくれることになっている。まずは朝の掃除と朝礼を見学するのが、青島から頼まれた大きな目的の一つだ。

酔いが回るにつれ、「電車の中で出会った下駄のカンジーという人物は本当にいたのか? 実はわたしの妄想が生み出した夢の中の人物なのではないか?」とぼんやり思い始めた。

窓の外は暗くなっていた。都会と比べて明かりが少ない寂しい景色だ。

(社長のおつかいで)

自分のその言葉を思い出し、またチクリと胸が痛んだ。

わたしは2本目のビールを開け、その思いを文字通り飲み込むように流し込んだ。

「苦い!」

そうつぶやきながら、コンビニのツマミを怒ったように口に押し込んだ。

そして、わたしはいつのまにかベッドの上にそのまま横になって寝てしまっていた。

(つづく)

㈱エッセンシャル出版は、「本質」を共に探求し、共に「創造」していく出版社です。本を真剣につくり続けて20年以上になります。読み捨てられるような本ではなく、なんとなく持ち続けて、何かあった時にふと思い出して、再度、手に取りたくなるような本を作っていきたいと思っています。

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