『アトピー卒業ブック』（2011年11月初版発行）より

ここまで読んでくれてありがとう！　先生は君たちにいろいろな話をしてきたけれど、決して「アトピー専門」のえらい先生でも何でもない。どこにでもいる普通の皮膚科医だ。ただ、あまりにも気の毒なアトピー患者さんとの出会いがすごく多かった。ひとりでも多くの患者さんを診てあげたいけれど、残念ながら体は１つしかありません。先生なりに「もっと何かできることはないだろうか？」、「アトピーが難病なんて思われないようにできないだろうか？」と考えていたら、この本を書かずにはいられなくなってしまったというわけ。だから、みんなに読んでもらえるように、そして少しでも役に立つように、小学生でも内容がわかるように、やさしい表現を心がけたつもりだし、普段担当している先生に聞きづらい多くの疑問が解決できるように、先生なりに「知恵」をしぼったつもりだよ。

それでは、普段先生がやっていることを紹介しよう。先生は福島県の会津若松市にある病院に、2003年から勤務するようになって、主に県内の重症患者さんや難病患者さんの検査や治療をしています。

ほかの病院から、「検査をしてほしい」、「診断をつけてほしい」、「治療をしてほしい」という内容の紹介状を持って来院された患者さんの数は1800件を超えました。皮膚のデキモノ、癌、皮膚移植、陥入爪などの手術は1600件以上させてもらったし、アトピーなどのアレルギー性疾患だけではなくて、感染症、自己免疫性疾患、薬疹、炎症性角化症、爪矯正、レーザー治療など、要するに皮膚科の病気なら何でも診ています。それが先生の仕事。

病院では、「内科」や「外科」などが「メジャー」と呼ばれていて、「皮膚科」は「マイナー」と呼ばれているんだ。そんな皮膚科の中で、さらに専門分野を持ち――言葉は悪いけど「専門バカ」になって、その領域の患者さんしか診療しないなんてことをしていたら、地域医療はやっていけないし、そんな皮膚科医は総合病院では使いものにならない。でも、実際にはそんな皮膚科医がどんどん増えてしまっているのが現実なんだ。

どんな患者さんがきても「逃げない」、「あきらめない」をモットーに、多くの「知識」を吸収し、「技術」を磨いて「知恵」をしぼって、先生はやってきました。すごく大変だけれど、その分勉強にもなる。患者さんから教えてもらうことも本当に多いんだ。そういう意味で、「ｐａｔｉｅｎｔ（患者さん）ｂａｓｅｄ（にもとづいた）ｍｅｄｉｃｉｎｅ（医術）」ができる良い環境で働かせてもらっていると思っています。

本当の「プロ」というのは、１つのことを究めた人ではなくて、「何でもできる人」、「何にでも対応できる人」のことを言うらしいから、先生もそれを目標にがんばっています。この本は、アトピーのことだけではなくて、そんな先生の思いもいっぱいつめ込んだつもりです。だから、君たちもこの本を良く読んで、自分の担当の先生と良く話し合って前向きに治療してほしい。

最後に、「病院や先生に依存してしまわないよう」、君自身が「自立して、自信を持って」アトピー治療に取り組んでいってほしい。それが先生の一番の「願い」です。君たちがアトピーをやっつけて、さらにすてきな大人になれますように、先生は心から祈っています。

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【岸本和裕・きしもとかずひろ】

1970 年兵庫県西脇市生まれ。福島県立医科大学医学部卒。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。医学博士。竹田綜合病院皮膚科科長。福島県立医科大学臨床准教授・非常勤講師・博士研究員。

アレルギー性疾患のみではなく、良性・悪性皮膚腫瘍の手術（皮弁術、植皮術）、レーザー治療、感染症、自己免疫性疾患、炎症性角化症、陥入爪手術、爪矯正術など幅広い分野の診療を行っている。皮膚科過疎地域で地域医療に明け暮れる傍ら、日々の臨床における問題点を解析して多くの論文を世に送り出し、医学に貢献することを目指している。現在まで、臨床論文、臨床研究論文を中心に、筆頭著者論文は約100編。そのほか、医大や看護学校での講義や、研修医への指導などを通じて後進の育成にも取り組んでいる。

【先生の連絡先】

〒965-0862 福島県会津若松市本町1-1

山鹿クリニック（竹田綜合病院）皮膚科

＊山鹿クリニックのサイト＊