小学校4年生から育てるべき「他者性」「意志力」「束ねる力」―子どもの能力を開花させるためのキーワード 〜教育の先駆者の提言から

算数脳」これは、「生きる力」「本当の学力」に直結する能力のことです。算数脳という高度な思考力を体得するには、条件として、子ども自身の成熟が不可欠だと言えます。小4からどんな力が伸びるのか?どう伸ばしていけばいいのか?小3と小4とでは伸ばすポイントは異なるのか?

このエッセンスを、『小3までに育てたい算数脳』の続編『小4から育てられる算数脳plus』からお伝えします。

「百マス計算」が全盛の時代から、子どもたちの「生きる力」を掲げ、新しい時代の教育の先駆者となった、花まる学習会代表の高濱正伸先生受験戦争のその先の人生を視野にいれた提言には、多くの信頼と支持が集まり、これまでに高濱先生が見てきた親子は5万組以上に。

著作『小3までに育てたい算数脳』では、子どもたちが、本当の学力と生きる力を得るために、「小学校3年生までに“見える力”と“詰める力”を育てることが必要と述べています。では、小学校4年生からでは、もう遅いのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。小学校4年生からでも伸ばすことができます

そして、この年齢から育てられる「プラスの力」があってこそ、「算数脳」を活かし、未来を力強く生きるための能力を手に入れることができるのです。この力を育てるために必要なこととは何でしょうか?

小3までに育てたい算数脳』でテーマとなった力

見える力=図形センス、空間認識力、試行錯誤力、発想力など

詰める力=論理力、要約力、精読力、意志力

この2つの力は10歳までに、生活と遊び、特に「外遊び」を通して育んでいくべきものです。

「小3までに育てたい算数脳」…「見える力」 と 「詰める力」! 生きる力と本当の学力を育む2つのキーワード〜新しい時代、教育の先駆者の提言から

 

◇働けない大人たち

所属する場所にいられない、そこで働きたくない…彼らに共通するキーワードは「合わない」だと高濱先生はいいます。違う人びとが集まって「社会」という一つのコミュニティーができている。それなのに、自分に「合わない」のは当たり前だということがわからない。そこに「合わせていく」のが、正しい大人としての在り方なのに…。

「それができないのはなぜか? どこかで考えることを放棄して、楽な道を選んでしまっているからです。「合わない」と思う子たちは、困難な問題に直面したとき、「自分には無理」、「私はこれが苦手」というレッテルを自分に貼ってしまう。そうやって、「考える」という大事なプロセスを飛ばしてしまうのです。―本文より

一つのことを納得がいくまで徹底して考えること。これが算数脳の肝となる部分でもあります。

◇6年生の1学期ではっきりする「伸びる子」と「苦労しそうな子」…子どもが変身するスイッチを押す

小学校6年生の1学期には、伸びる子と伸びない子が一見してわかる時期だといいます。まさに〝砂に水〟といった吸収力で、格段に難しさがアップした問題を解くのが面白くて仕方がなく、記憶力もグンと増し、いくらでも知識が頭に入ってくるという「伸びる子」。一方、懸命な努力をしているのに伸びず、顔つきからして違う子…。これは、自分の頭で考えて「わかった!」という体験をしてきたかどうかにかかっています。高濱先生が、このために重視したのが“小学校3年生まで”。ただし、小学校3年生までに算数脳が育っていないと感じる場合でも、次の二つのステップを経ることで能力を目覚めさせるスイッチを押すことが可能、というのが高濱先生の考えです。そのポイントになるのが「自信」。

ステップ1 成功体験というスイッチ…

まわりのサポートがあったにせよ、最終的には「自分の力でやったんだ」と感じられる体験をすること。自信を得たと実感した子どもは、再び自信のない状況に戻りたいとは絶対に思わず、よい状況を維持するために、あるいはさらに伸ばすために努力を怠りません。ちょとしたタイミングを見逃さずに「ほめ言葉」をかけることも大事です。

ステップ2 意識改革というスイッチ…

苦手意識を克服するために必要です。高濱先生の考えでは、小さい子どもにはそもそも「得手不得手」がありません。では何故、苦手意識が起こるのか? それは、「誰かに評価されることに対しての不安や恐れ」つまり、「マイナス評価」に対する防御本能として、先回りして「苦手」という意識を芽生えさせているのでは、というのが高濱先生の考えです。苦手意識とは「思い込み」。その克服のポイントは、親や兄弟以外の「憧れの人」「ヒーロー」「師」などの「斜めの人」にあります。親が言っても逆効果になるところでも、この「斜めの人」が「算数っておもしろいよな」とか、「国語って大人になってからすごく大事なの。私も○○さんと同じ頃には一生懸命勉強したわ」と言ってくれるだけで、俄然やる気が出るものだそうです。※苦手意識を持たないために『小3までに育てたい算数脳』に列挙されている「NGワード」を言わないことも重要です!

◇小学校4年生から育てたい力とは?

算数脳をよりよい形で機能させるためには「プラスの力」が必要です。九歳までの「考える」とは別次元のレベルで、「本当に自分はこれが限界かな」「本当にこれで考えきったかな」「本当にこれで相手にわかってもらえるかな」と、高い集中度で突き詰めることができるかどうか。

「答を出す」という点でいえば、『小3までに育てたい算数脳』で身につけたいとされた「見える力」があれば、「答え」あるいは解答への「ヒント」が一瞬にしてわかってしまいます。

しかし、出題者は、「なぜその解答に至ったのか」を知りたいと思っています。それは「どれだけその問題を理解しているか」ということと同じだからです。ですから、直感で得た答えやヒントをもとに、第三者が理解できる形で提示しなければなりません。最終的には〝自分の言葉〟で、出題者の意図に沿った解答に作り上げる能力が必要なのです。―本文より改編

●このために必要な3つの力!

「他者性」――相手の気持ちを推し量る能力

自分のことをどれだけ客観視できるかという、俯瞰して物事を見ることができる能力のこと。「出題者の意図するところをいかに読み解くか」という意味もあります。つまり、相手の考えていることを推し量る能力です。出題者がどんな解答を望んでいるかが想像できれば、ほかに必要なのは、基礎的な学力や公式などの知識。これでその問題はほぼ解けたも同然です。

「意志力」

やるべきことをやりとげる力。課題に直面し、努力を淡々と重ねられる力。あきらめずに納得するまでやり抜けるか、自分が心から「わかった!」と、納得できるまで粘り強くがんばれるか。

「束ねる力」

問題を一度抽象化し、見えないものを見るイメージをフルに駆使して、必要な条件等に収斂させていく力。

ex)「百角形の内角の和は何度になるか?」という問題に対する小学校5年生の女の子の解答。

小4 34

この問題を解いた女の子の思考回路についての高濱先生の説明

この女の子の思考力や発見力には感動しました。

難しい問題にぶつかったときに、どうやって解答まで導く発想をするのか。それには、自分の知識の中にある「似たようなもの」や「抽象的なイメージ」を動員することなんです。それが基本です。

この解答では、「補助線を引いて三角形を作る」というポイントはちゃんと押さえている。ここで彼女は、「三角形を作る」というときに、ちょっとおもしろいイメージが湧き上がったんじゃないかと想像するんですよ。(中略)「百角形」なんて口で言うのは簡単だけど、実生活においてそんなもの普通は見ることがありません。そういう抽象的なものをきちんとイメージできるかなんですよ。それがホールケーキになってショートケーキになってっていう、これもイメージの世界です。そこまで広がったものを、今度は設問が示す「必要条件」とか「ルール」とかの中に持っていって収斂させていく。それも瞬時にカチッカチッカチッと。それが「束ねる力」ですね。 

また、この女の子は、きちんと自分の言葉で、出題者が納得できるようにこの解答を説明してみせました。「他者性」も備えていたのです。

小学校4年生の分岐点

算数脳という高度な思考力を体得するには、条件として、子ども自身の成熟が不可欠だと言えます。ですから「小4から育てたい」のです。

一般的に、子どもの成長の分岐点は10歳だと言われています。10歳くらいを境に、自分を取り巻く社会の情報などに対する感受性が強まり、また同時に、思考力や洞察力もグングンと成熟していきます。それまでは自分の感覚的なものや親の言うことを拠りどころとしていたものが、より論理的な思考を行うことによって、自らの力で物事を判断し始める時期にあたるわけです。それは身体の変化と同期していくと考えられます。

また、そうした身体の変化に合わせて、他人からの「目」が気になるようになります。自分と他人との差異(個性)強くを意識し始めるのもこの頃からです。

さらに、それまでは「家族」への帰属意識が強かったものが、この頃からは友達やクラブといった「集団」への意識が高まります。いわゆる「社会性の発露」です。要するに、子どもから大人へと変わっていくわけですが、そうした子どもの社会的意識の目覚めに対して、親のほうは意外と鈍感だったりします。この時期のお子さんに対する親の姿勢としては、そこまで育てた自分の子育てを信じ、〝子どもの可能性を信じて見守ること〟につきます。

―本文より

とは言え、高濱先生は「それに何よりも言いたいのは、子は千差万別、伸びる時期、伸び方は、子どもの数だけあると言い切れることです。」と述べています。本書でも紹介されている、高濱先生の元で学んでいた「F君」のお話をします。

F君は、小さなカッターナイフを使って器用に鉛筆や消しゴムなどを削る子でした。授業中にも削りだそうとします。よく見るとそれは何かの造形なのですが、手元にあるもので飽き足らなくなると、講師に小さくなったチョークをもらっては削り出す…どこか大人びたところが必要な中学受験は、F君には無理だと高濱先生は判断したそうです。

でも、消しゴムを削っているときの集中力は見てとれるし、なにより立体の造形を作っている。「空間認識力」が優れていると見ることもできました。「なぞぺー」(花まる学習会の人気教材)では、時として、オッと驚くような鋭い解き方も思いつく。このようなことから、意識が大人になってくれば、Fくんは伸びると高濱先生は感じます。

ここから、高濱先生の言葉を引用します。

Fくんのような片鱗を見せる子はたくさんいます。ただし、本人が主体的に勉強するという動きをしない限り、その片鱗が形となって実を結ぶことはありません。片鱗だけで終わってしまう子が多いのも事実です。

彼の場合、その主体性が育つようにサポートをしたのが、ほかならぬお母さんでした。余計な口出しをせず、でもわが子の可能性を信じ、温かく見守ることにした。それがプラスに働いたのです。

Fくんはその後、高校受験で最難関の進学校へと進むことができました。中3の夏くらいからメキメキと力をつけて頭角をあらわしたのです。肉体的な成長も関係していたに違いありません。もともと抽象的な立体の造形が作れるくらいでしたから、算数脳でいうところの「見える力」は充分にあったのです。それに成長にともなって、必要な能力が育ち花開きました。

Fくんのように大きな成長を見せる例はよくあります。が、「算数脳」(=「見える力」と「詰める力」)を育てようと特別に意識したことはなかったようですから、彼本来の性格や資質とうまくマッチした結果でもあるのだろうと思います。彼は中3の夏を境に、やるべきことをやりとげる「意志力」がつき、「束ねる力」が開花したのだろうと考えています。「他者性」は、温かく見守ってくれた母のもと、本人の年齢的な成長(心身両面)がうまく作用したものと考えています。

ここで、本書でも紹介されている、チェック項目をご紹介!

◇うちの子大丈夫? 算数脳チェック!◇

大丈夫な子

□パズルが好き

□「要するに」が口ぐせ

□計算ミスが少ない

□問題の良し悪しがわかる

□数えることが好き

□道案内ができる(地図が読める)

□人の話を聞くときに瞳が輝いている

□「わかった!」「なるほど」を大切にしている

□負けるととても悔しがる

□「自分でやる!」と言う

□迷路をはじめ、問題やパズルを作ることができる

□どう解いたかを説明できる

□何か一つ得意なもの(友達の中で認められているもの)がある

□漢字は確実に身についている

□いろいろやってみたい好奇心が旺盛

□親や社会の矛盾点の指摘がもっともなことが多い

□こちらの声が聞こえないくらい、何かに集中しているときがある

□毎日楽しそう

□走り回るのが大好き

□話が理屈っぽいことがある

□ユーモアのセンスがいい

□囲碁や将棋、カードゲームなどが好き

□「完全な納得」以外は許さない

□「この人何が言いたいんだろう」と心の目で要点を掴んでいる

ちょっと不安な子

□すぐに「わからない」と言う

□勝ち負けに執着がない

□答えを聞きたがる

□「これ足し算? 引き算?」と聞く。「立式のための思考」をパスしたがる

□「わかった?」と訊くと「だいたい(わかった)」と言う

□どう解いたのかの説明ができない

□やっているふりをする

□人の話を聞くとき集中ができない

□言われたことだけしかやれない。考えてない

□本当は納得しきれていなくても、「ま、いいか」と考える

□道案内が要領を得ない

□人を笑わせるのが苦手

□じとっとしている

□自信がなさそう

□ひたすら取り組むということがない

□新しいことをやりたがらない。面倒臭がる

□漢字や計算力に穴がある

□得意技がない

―高濱正伸( Takahama Masanobu )

高濱先生 250

1959年熊本県人吉市生まれ。

県立熊本高校卒業後、東京大学へ入学。

東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。

花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。

算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。

1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。チラシなし、口コミだけで、母親たちが場所探しから会員集めまでしてくれる形で広がり、当初20名だった会員数は、23年目で20000人を超す。また、同会が主催する野外体験企画であるサマースクールや雪国スクールは大変好評で、年間約10000人を引率。

各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。

障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も一貫して受け続け、現在は独立した専門のNPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営している。

公立学校向けに、10年間さまざまな形での協力をしてきて、2015年4月からは、佐賀県武雄市で官民一体型学校「武雄花まる学園」の運営にかかわり、市内の公立小学校全11校に拡大されることが決定した。
ロングセラー『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』ほか、『小3までに育てたい算数脳』『わが子を「メシが食える大人」に育てる』『算数脳パズルなぞぺ~』シリーズ、『メシが食える大人になる!よのなかルールブック』など、著書多数。関連書籍は200冊、総発行部数は約300万部。

「情熱大陸」「カンブリア宮殿」「ソロモン流」など、数多くのメディアに紹介されて大反響。週刊ダイヤモンドの連載を始め、朝日新聞土曜版「be」や雑誌「AERA with Kids」などに多数登場している。
ニュース共有サービス「NewsPicks」のプロピッカー、NHKラジオ第一「らじるラボ」の【どうしたの?~木曜相談室~】コーナーで第2木曜日の相談員を務める。

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◇算数脳を鍛える 高濱正伸先生の監修書籍◇

スゴイ!三角定規つき 三角パズル ~手を動かして伸ばす算数脳・図形センス編』梅﨑 隆義(著)高濱正伸(監修)

「正方形は45度の三角定規2枚分」。付属の三角定規16枚を組み合わせて、図形の成り立ちを知り、角度を探し当てたり、補助線を引いたりしましょう。ワークぺージは何枚でもダウンロード可能です。もともとない場所に「補助線が浮かび上がって見える」ようになるための練習は、まさに高濱先生が「小3までに育てたい」とした「見える力」を鍛えることです。「先生に言われたから大事とわかる」のではなく、もっと本質的なところで「三角形は大事」と分かっているかどうか。本書で、計算問題とはまた違う能力を身につけていただければと思います。ご家族で遊ぶのもおすすめです。

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この一冊との出合いが図形問題を大得意にする!

こどモン ~子どもたちが作った問題集 解いて! 作って! 思考力を伸ばそう』花まる学習会 (著), 高濱正伸 (監修)

問題を「解く」と「作る」の醍醐味を味わいながら、算数脳を育てるための一冊です。収録されているのが、子どもたちが作った問題であることから「諦めず・夢中になって・集中して」問題に取り組むことができます。また、収録されている問題からは、「試行錯誤・発見・平面図形・論理・国語/漢字」の力をつけることができます。

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問題作りには子どもの力を伸ばすエッセンスが満載!

 

 

 

㈱エッセンシャル出版は、「本質」を共に探求し、共に「創造」していく出版社です。本を真剣につくり続けて20年以上になります。読み捨てられるような本ではなく、なんとなく持ち続けて、何かあった時にふと思い出して、再度、手に取りたくなるような本を作っていきたいと思っています。

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