☆編集雑記 【ステロイド入り漢方クリームの報道】

岸本先生からメールをいただいた。朝日新聞の取材を受けましたという。

先生にお会いしたことがある人ならわかると思うけれど、とても真面目でシャイな方なので、マスコミは苦手だし、あまり出たくないとおっしゃるのもわかる。しかし、どこの出版社の編集者も同じで、著者がいろいろな媒体に出てくれることは何よりの宣伝となるから、こんなにありがたい話はない。本は売れてナンボで、いい本を作ってそれで「よし!」ということはまずあり得ない。

『アトピー卒業ブック』に関しては、編集者として先生と丁々発止のやりとりをさせていただいたし、赤ペンを持って先生の書かれた文章を読みながら、患者さん方への先生の思いに胸が熱くなったりして(家庭医学の実用書であるにもかかわらず!)、心の底から“ひとりでも多くの患者さんに読んでもらいたい!”という思い入れも強い。そんな本だから、できればマスコミにもドンドン露出していただきたいものだ。

 

岸本先生の心のうちを斟酌(しんしゃく)するならば、これ以上自分のところに患者さんが来るようになったら、果たして充分なケアができるかどうか……ということを心配されているのだと思う。実際、本を出してからは「一度先生に診てもらいたい」という患者さんが全国各地から先生のもとへやってきているというから、先生の心配もまったくの杞憂(きゆう)ではない。とはいえ、この本は患者さんによるセルフケアをサポートするための本だから、この本を読む人が増えれば、結果的に先生の負担もずっと軽くなるはずなのだ。そういう意味では、まだまだ広めるための努力が足りないと反省することしきりで、これを読んでくださっている方は、ぜひまわりでアトピーに悩んでいる人がいらっしゃるようだったらこの本を薦めてあげてください。よろしくお願いします。

 

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さて朝日新聞の取材の件である。事の発端は、神奈川県横浜市にある山口医院に、今年(2014年)の2月、虚偽広告をしたとして行政指導が入ったことからだった。この医院では「ステロイドが入っていない」という謳(うた)い文句の漢方クリームを、1個(5g)4千円で販売していたという。「よく効く」という口コミや女性タレントのブログなどから評判が拡散して人気を博したようだが、「効きすぎる、おかしい」という声が横浜市に寄せられて検査した結果、ステロイドの混入が発覚した。使用されていたステロイドのランクは「ストロンゲスト」(5段階で最強レベル)だったという。

症状の重い患者さんにとっては一時的にすごく効果があったはずだ。ただし、強い薬には当然副作用もある。本来は症状に合わせて5段階あるステロイドを使い分ける必要があるのだけれど、そうしたことがまったく考慮されることなく販売されていたのだろう。なぜそんなことがまかり通ってしまうのか、その背景を読者に伝えたいというのが、取材した記者の意向でした、と先生はいう。

 

そもそもこの漢方クリームを使おうと考えた患者さんたちは、長いあいだアトピーに苦しめられてきた人がほとんどのはずだ。どの患者さんも最初は皮膚科にいく。そして、ほぼ例外なくステロイド入りの薬を処方される。ところが、それが効かない。ひどいときには症状が悪化したりする。すると、患者はその病院に見切りをつけて次の病院へいく。そこでも同様であれば、患者は次の病院を探すしかない。そんなことをくり返すうちに“医療難民”のようになってしまう。

ここまで読むと、悪いのは医師の指導にあることがわかるはずだ。しかし、患者は弱い存在だ。病気を治してくれるお医者さんは「神様」のように見えてしまう。そう思わなければ、誰も自分を救ってくれるものなどいなくなる。すると、「この最悪の現状を招いたのはステロイドにちがいない」という結論にならざるを得ない。「悪いのは先生ではなく薬」という解釈である。これが「脱ステロイド」の始まりだ。

かくして、「よく効く上にステロイドが入っていない」という漢方クリームが受け入れられる下地が完成する。いわゆる「アトピービジネス」といわれるものが受け入れられるのも同じ構造だといえよう。

 

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メスを持たせたらまるで“神の手”のようにオペを行なう“スーパードクター”と呼ばれる人は確かにいます、と岸本先生はいう。だが、先生ご自身はまったくちがうと謙遜される。どちらかといえば不器用なくらいだから、神のごとく患者さんの上に立って手を差し伸べるのではなく、むしろどれだけ患者さんに寄り添えるかと、手を携えるようにしてやってきたのだと……。

『アトピー卒業ブック』では、患部をちゃんと診もしないし触りもしない、あるいはパソコンの画面から目を離さないような医者がいると先生は書いて嘆いている箇所がある。一方、先生はじっくりと診て触って感じる。じっと話も聞く。そうやって情報収集を徹底する。そして、患者さんの状態にもっとも適したステロイドなどの薬を処方し、その使い方まできちんと指導する。口でいっただけではわからないこともあるから、実際に患者さんと一緒にやってみる。そうやって患者さんと同じ荷を背負おうとする。神の手は持っていないかもしれないけれど、患者さんからすればこんなにありがたい医者はいないはずだ。

(こういうスタイルの医療は、時間も手間もかかるからちっとも儲からない。でも、私たち患者が求めるのはそういう医療であり医師だ。医療制度というのは、こうした医療に対して手厚くなければならないと思うが、実際にはそうはなっていない。)

 

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今回の取材記事で先生は、道具(ステロイド)が悪いのではなく、使いこなせない医者が悪いのだと毅然とコメントしている。同業者に対するこうしたコメントが、先生の活動に対して追い風になるとはちょっと考えにくい。むしろ、「偉そうに、余計なこといいやがって」なんて思われるのがオチだ。それでもいわずにはいられない。「最初に患者を診たあなたのところで、どうしてアトピーを食い止めることができなかったのですか」と。

とはいえ、岸本先生は孤軍奮闘しているわけではない。『アトピー卒業ブック』『アトピー実戦テキスト』を読んで共感し、患者さんに読むように薦めたり、実際に治療に応用してくださったりしている医師も少なからずいるからだ。それはまだ小さなさざ波みたいなものかもしれないが、やがて大きなうねりとなってアトピー医療全体を変える力となるかもしれない。

だが、残念ながら今の段階でそれはあくまでも希望的観測の域を出ない。ならば、私たち患者サイドはどうしたらいいのか?

『アトピー卒業ブック』には、いいお医者さんの見分け方も載っているから参考にしてほしいけれど、何よりもいちばんなのは“自分の身は自分で守る”ことだ。そのためにもぜひこの本を読んでほしいと願わずにはいられない。読んでわからないことがあればドンドン質問してください。どんな質問にも先生は必ず答えてくれます。

 

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賛否両論あると思うけれど、アトピーで悩む人にとって、ステロイドは必要な薬なのだと思う。ただし、“他人まかせ”にしては絶対にいけない。なぜなら、ほとんどの医者は「神様」ではないから。

先日、岸本先生のもとに「脱ステロイド」の患者さんが訪れ、「この本を読んでもう一度治療を受けてみようと思いました」という話をしてくれた方がいたそうだ。「いい傾向です」と先生も嬉しそうだった。

いま、世の中には情報が溢れかえっている。そうした中で何を取捨選択するのか、そのための指針や判断基準を自分の中でどのように築いていくかが問われる時代になっている。『アトピー卒業ブック』はそうした指針のひとつになる本だ。未読の方は、ぜひ実際に治療を受けるお子さんと一緒に読んでみてください。そうできるように、とてもわかりやすく書かれている。治療を受ける子どもたちが、自分の病気のことについて、症状について理解することが何より大切なのですから。

 

※岸本先生が取材を受けた朝日新聞(神奈川版)の記事は、先生が勤務する竹田綜合病院のホームページで読むことができます。
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